[ja] 現代フランス語では、「墓へ行く」という行為は前置詞 sur を用いた « aller sur la tombe » という表現で以って表される。しかしながら、古フランス語期 (9世紀 - 13世紀)、ならびに、中世フランス語期 (14世紀 - 15世紀) では、前置詞 à を用いた « aller à la tombe » という表現が見られる。本研究では、前置詞 sur の機能と名詞 tombe の意味変化に着目することで、「墓への移動」が表される際に名詞tombe (「墓」) に対して使用される前置詞が通時的に異なる原因を解明する。
第一に、前置詞 sur に関して、この前置詞は「物理的接触状態」の意味 (eg. « Il y a un livre sur le bureau. » : 「机の上に本がある。」) の他にも、活動領域を表す機能 (eg. « Je travaille sur Québec. » : 「私はケベックシティで働いている。」) を有する。
第二に、「墓へ行く」という行為は「墓参り」、ないしは、「墓参りに準ずる行為」を一般的に指す。民俗学的には「墓参り」とは「死者に思いを馳せる行為」のことであり、tombe という「墓」を表す名詞において「死」の象徴的意味が付加されたのは17世紀半ばである (cf. Dictionnaire Historique de la Langue Française)。さらに、この「死」の象徴的意味の出現は、「死」を悲劇的なものとして他者を惜しむという死生観が17世紀に誕生したという民俗学的史実に合致する (cf. Philippe Ariès, Essais sur l'histoire de la mort en Occident : Du Moyen Age à nos jours, Éditions du Seuil, 1975)。
これらの二点を考慮すれば、« aller sur la tombe » とは、「死者に対する崇拝や墓参りといった特定の強い意味をもった行為をしに赴く」ということを意味する。即ち、他者の死を強く惜しむ死生観が出現し始めたことによって、17世紀以降、「墓場」に対して活動領域 (terrain d’action) の意識が芽生え、« aller à la tombe » の代わりに « aller sur la tombe » の使用頻度が高くなったと考えられる。逆に、16世紀以前は、先述の死生観は存在しなかったため、« tombe » は単なる場所であるとみなされ、活動領域を表す « aller sur la tombe » ではなく、単なる物理的目的地を表す前置詞 à を用いた « aller à la tombe » の使用頻度が高かったと考えられる。
フランス語の名詞 tombe について ——「墓へ行く」は « aller à la tombe » かそれとも « aller sur la tombe » か
Alternative titles :
[fr] À propos du substantif 𝘵𝘰𝘮𝘣𝘦 en français : 𝘢𝘭𝘭𝘦𝘳 à 𝘭𝘢 𝘵𝘰𝘮𝘣𝘦 vs 𝘢𝘭𝘭𝘦𝘳 𝘴𝘶𝘳 𝘭𝘢 𝘵𝘰𝘮𝘣𝘦
Original title :
[ja] フランス語の名詞 tombe について ——「墓へ行く」は « aller à la tombe » かそれとも « aller sur la tombe » か
Publication date :
15 May 2021
Event name :
SOCIETAS JAPONICA STUDIORUM ROMANICORUM (59e session)
Event organizer :
SOCIETAS JAPONICA STUDIORUM ROMANICORUM
Event place :
Japan
Event date :
May 15-16, 2021
Audience :
International
Peer reviewed :
Editorial reviewed
Name of the research project :
Diachronic Study and Systematic Analysis of Unmarked and Marked Potential Expressions in French
Funders :
JST - Japan Science and Technology Agency
Funding number :
JPMJFS2110
Funding text :
Research Fund of the University Fellowship Program for the Creation of Innovation in Science and Technology : Multi- and Inter-cultural Research and Innovation Fellowship (MIRAI) Program (Research Activities at the Tokyo University of Foreign Studies)