Paper published on a website (Scientific congresses and symposiums) 日本語とフランス語における生起表現の進化類型 ——偶有性の有無がもたらす表現交替現象と補文推移の差異に着目して
Yoshitake, Daiki
2020 • Japan Society for Historical Linguistics (10th session)
Peer reviewed
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Abstract :
[ja] 本研究では、フランス語と日本語の電子コーパスを用いて両言語における生起表現の進化類型と進化の要因を明らかにする。
フランス語における生起表現を通時的に概観すると、advenir (英語の come に相当する動詞 venir の派生語) が古・中世フランス語期で用いられたが、ルネサンス期以降に、これが arriver (英語の arrive に相当する動詞) に取って代わられた。一方で、日本語では、生起を表す際は「起こる」と「出で来」が上代にて用いられたが、現代では、「出で来」の生起用法は廃れ、「起こる」が優位性を持つようになった。以上の史実より、生起を表す際は、日仏両言語共に古文では come 系列の動詞が用いられたということが言える。この交替には、生起表現に必要とされる Contingency (偶有的属性) の有無が関係しているということが考えられる。この交替の素因として、フランス語に限定して説明するならば、advenir は起点に焦点が当てられる動詞であり、arriver は着点に焦点が当てられる動詞であるということが挙げられる。即ち、「[N1 V à N2] (eg. « Un accident est arrivé à Jean. ») において、N1 と N2 の関係が偶有的に成立する」という Contingency が生起表現には要求され、arriver はそれを備えているが、advenir はそれを有さないと説明することができる。また、日本語においても、生起表現に要求される Contingency が、二つの動詞の交替の要因になっており、come 系列の動詞である「出で来」は生起表現には適さず、Contingency を有する「起こる」が生起表現として適合したと考えられる。
さらに、コーパス分析の結果として、この Contingency の有無はフランス語の advenir と arriver の補文推移にも影響を与えたと考えられる。Iyeiri (2010 : 7) によれば、補文推移のうち、定形補文が不定詞補文に取って代わられる現象がある。一般的に多くの動詞において両補文は類義であるとみなされる。arriver の場合、[Il arrive que N1 V] と [Il arrive à N1 de inf.] の両者には Contingency が存在するため、類義 (「N1が~することがある」) であるとみなされ、言語進化の摂理に基づいて当然の如く交替する。しかしながら、advenir に関しては、[Il advient que N1 V] と [Il advient à N1 de inf.] は交替しない。この要因として、次のことが考えられる。古フランス語期から無理に生起の意味として慣習的に使用された [N1 advient à N2] と [Il advient que N1 V] には Contingency が非自然発生的に付与され、採用された。しかし、[Il advient à N1 de inf.] という非定形補文では、そもそも advenir には Contingency が無いにも関わらず常に与格が共起し、かつ、意味上の主語が専ら動作 ([de inf.]) であるため、[Il advient que N1 V] から乖離した意味 (« Ça vient. » (「うまくいく」) という「可能」に近い意味) になり、異義であるとみなされ、普及しなかったということが考えられる。
Research Center/Unit :
Seinan Gakuin University
Disciplines :
Languages & linguistics
Title :
日本語とフランス語における生起表現の進化類型 ——偶有性の有無がもたらす表現交替現象と補文推移の差異に着目して
Alternative titles :
[fr] Typologie de l’évolution des verbes d’apparition entre le japonais et le français : réflexion sur le phénomène du remplacement des verbes attribué à la contingence
Original title :
[ja] 日本語とフランス語における生起表現の進化類型 ——偶有性の有無がもたらす表現交替現象と補文推移の差異に着目して
Publication date :
28 November 2020
Event name :
Japan Society for Historical Linguistics (10th session)
Event organizer :
Japan Society for Historical Linguistics
Event place :
Nishimiya, Japan
Event date :
November 28, 2020
Peer reviewed :
Peer reviewed
Available on ORBi :
since 12 September 2024
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